短い足で一生懸命走る姿、ぷりぷりのお尻をフリフリさせる歩き方——愛らしいコーギーは、今や世界中で大人気の犬種です。
でも、そんなコーギーが実は「バリバリの働く犬」だったことをご存知でしょうか?
あのかわいい短足には、何百年もの間、牧場で家畜を追い回してきた「牧羊犬」としての歴史が詰まっています。今回は、コーギーがどんな仕事をしていたのか、なぜあの独特な体型になったのか、その知られざる歴史を詳しくご紹介します。

コーギーの起源|1000年以上前から活躍した牧畜犬
コーギーの歴史は非常に古く、その起源は1107年頃までさかのぼることができると言われています。
「ウェルシュ・コーギー」という名前の通り、イギリス・ウェールズ地方で生まれた犬種です。「ウェルシュ(Welsh)」はウェールズを意味し、「コーギー(Corgi)」はウェールズ語で「小さな犬」を意味する言葉に由来するとされています。
コーギーのルーツには2つの説がある
コーギーがどこからやってきたのかについては、主に2つの有力な説があります。
①バイキング説:8〜10世紀頃、北欧のバイキングがウェールズに植民した際、故郷から牧畜犬を連れてきたという説。スウェーデンの「スウェーディッシュ・ヴァルフンド」という犬種がコーギーの祖先ではないかと言われています。
②フランドル説:1107年、ヘンリー1世がフランドル地方(現在のベルギー付近)の職工たちを招いた際、彼らが連れてきた犬が起源という説。
どちらの説が正しいかはわかっていませんが、興味深いのは、ウェールズのペンブロークシャー地方にはバイキングが植民していた証拠として遺跡が残っていること。なんと「ストックホルム」という北欧由来の地名まであるそうです。
いずれにしても、コーギーは1000年近く前からウェールズの牧場で、人間と一緒に働いてきた歴史ある犬種なのです。
「ヒーラー」と呼ばれた牛追い犬としての仕事
コーギーは牧羊犬の中でも、特に「ヒーラー(Heeler)」と呼ばれるタイプの牧畜犬でした。
「ヒール(heel)」とは英語で「かかと」のこと。その名の通り、家畜のかかとを噛んで誘導するという独特な仕事の仕方をしていたのです。

コーギーの仕事内容
当時のコーギーは、ウェールズの牧場で昼は牧畜犬、夜は番犬として大活躍していました。具体的にはこんな仕事をしていたようです。
- 牛の誘導:牧場から家畜が逃げないように管理する
- 追い返し:他の牧場の家畜が迷い込んできたら元の場所に追い返す
- 市場への移動:牛を食肉処理場や市場へ移動させる際に追い立てる
- 番犬:夜は牧場を守る見張り役
体の何倍も大きな牛を相手に、機敏な動きとかかとへの一噛みで見事にコントロールしていたコーギー。小さな体に秘められたパワーと知恵には驚かされますね。
羊ではなく「牛」を追っていた
「牧羊犬」というと羊を追うイメージがありますが、コーギーが主に相手にしていたのは牛でした。羊やポニーを追うこともありましたが、特に牛の管理を得意としていたのです。
ボーダー・コリーのように羊を「眼」で睨んでコントロールするタイプとは異なり、コーギーは「噛む」というよりダイレクトな方法で家畜を動かしていました。この違いが、コーギー独特の体型と性格を生み出すことになります。
なぜ短足?コーギーの体型に隠された「仕事の工夫」
コーギーといえば、あの短い足が最大のチャームポイント。でも実は、この体型には牧畜犬として働くための理にかなった理由があるのです。
短足の理由①:牛に蹴られないため
コーギーの仕事は、牛のかかとを噛んで誘導すること。当然、驚いた牛が後ろ足を振り上げて蹴ろうとすることもあります。
ここで活きてくるのが、あの低い体高。体高25〜30cmという低さのおかげで、牛が足を振り上げても蹴りが当たらず、サッと牛のお腹の下に潜り込んで避けることができたのです。
体高:25〜30cm(地面から背中まで)
体重:10〜14kg
体長は体高より約40%長い「胴長」体型
短足の理由②:素早い方向転換が可能
低い重心は、俊敏な動きにも有利でした。牛を追いかけながら急な方向転換をしたり、素早く体勢を立て直したりするのに、短い足と低い重心はとても都合が良かったのです。
短足でありながら筋肉質でがっしりした体格を持つコーギーは、見た目以上のスタミナと運動能力を誇ります。これもまた、牧畜犬として鍛え上げられてきた証なのです。

断尾の習慣も牧畜犬時代の名残
ペンブローク・コーギーはしっぽがほとんどない(または非常に短い)のが特徴です。これは、もともと断尾(だんび)という習慣によるものでした。
牛を追う仕事をしていると、長いしっぽは牛に踏まれてケガをするリスクがありました。そのため、子犬のうちにしっぽを短くカットする習慣が生まれたと言われています。
現在では動物愛護の観点から断尾を禁止している国も多く、しっぽのあるペンブローク・コーギーも増えてきています。
ペンブロークとカーディガン|実は別々の犬種
コーギーには「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」と「ウェルシュ・コーギー・カーディガン」の2種類がいることをご存知でしょうか?
日本で「コーギー」と言えばほとんどがペンブロークですが、実はこの2種類は全く異なる祖先を持つ別の犬種なのです。
| ペンブローク | カーディガン | |
|---|---|---|
| 歴史 | 1107年頃から | 紀元前から(より古い) |
| しっぽ | ほぼ無し(断尾の習慣) | 長いしっぽがある |
| 体格 | やや小さめ | やや大きめ |
| 耳 | とがった立ち耳 | 丸みのある大きな耳 |
| 毛色 | レッド、セーブルなど | ブリンドルなども可 |
興味深いことに、1925年から1934年まではこの2種類は同一犬種として扱われ、互いの間で交配も行われていました。1935年にアメリカン・ケネル・クラブが別々の犬種として分類してからは、それぞれ独自の道を歩むことになりました。
イギリス王室に愛された「王室の犬」
コーギーは牧場で働く犬でありながら、イギリス王室との深い縁を持つ犬種でもあります。
12世紀のヘンリー2世(1133〜1189年)の時代から王室でコーギーが飼われていたという記録があり、「王室の犬」とも呼ばれてきました。
エリザベス女王とコーギー
特に有名なのは、故エリザベス2世女王とコーギーの関係です。女王は生涯を通じて30匹以上のコーギーを飼育したと言われており、「女王といえばコーギー」というイメージが世界中に広まりました。
女王が初めてコーギーを飼ったのは7歳の時。その後70年以上にわたってコーギーたちと過ごし、2022年に崩御されるまでコーギーを愛し続けました。
牧場で牛を追っていた働く犬が、イギリス王室の愛犬になったというのは、なんともドラマチックな歴史ですね。

現代のコーギーに残る「牧羊犬の本能」
現代のコーギーはほとんどが家庭犬として暮らしていますが、牧畜犬だった頃の本能や気質は今もしっかり受け継がれています。
牧羊犬気質が現れる行動
- かかとを噛む癖:人や他の動物のかかとを軽く噛もうとすることがある
- 追いかける本能:動くものを追いかけたがる傾向が強い
- 吠えて知らせる:警戒心が強く、チャイムや物音に敏感に反応する
- 群れを管理したがる:家族や他のペットを「まとめよう」とする行動が見られることも
これらの行動は、もともと仕事のために必要だった本能の名残です。「困った癖」と感じることもあるかもしれませんが、コーギーの歴史を知ると、ちょっと見方が変わるかもしれませんね。
現代でも活躍するコーギー
家庭犬としての人気が高いコーギーですが、その優れた運動能力と知性を活かして、ドッグスポーツの世界でも活躍しています。
アジリティ(障害競技)やフライングディスク、シープドッグ・トライアル(羊追い競技)などで好成績を収めるコーギーもたくさんいます。負けず嫌いで向上心のある性格は、牧畜犬時代から変わらない強みです。
コーギーの牧羊犬としての歴史を知る意味
コーギーが牧羊犬(牧畜犬)だった歴史を知ることは、現代のコーギーを理解する上でとても大切です。
- 運動量が多い理由がわかる→1日2回、しっかり散歩が必要
- 噛み癖の原因が理解できる→適切なしつけで対応
- 賢さと頑固さの両方を持つ理由がわかる→一貫したトレーニングが大切
- 太りやすい体質の背景を知る→食事管理の重要性
かわいいだけじゃない、「働く犬」としての歴史を持つコーギー。その背景を知ることで、より深い愛情を持って接することができるのではないでしょうか。
コーギーの牧羊犬としての歴史に関するよくある質問
コーギーは今でも牧羊犬として働いている?
現代ではほとんどのコーギーが家庭犬として暮らしていますが、一部の農場では今でも牧畜犬として活躍しているコーギーがいます。また、シープドッグ・トライアルなどの競技で羊追いの能力を発揮するコーギーもいます。
コーギーが牧羊犬に向いていた理由は?
低い体高で牛の蹴りを避けられること、俊敏な動きができること、スタミナがあること、そして賢く飼い主の指示を理解できることが、牧羊犬として優れていた理由です。また、勇敢で負けず嫌いな性格も、大きな家畜を相手にする上で重要な資質でした。
コーギーの短足は品種改良の結果?
はい、コーギーの短足は牧畜の仕事をしやすくするために、人間が意図的に短い足の個体を選んで繁殖させた結果だと考えられています。2009年の研究では、短足犬種には「FGF4」という遺伝子が関係していることが明らかになっています。
「ヒーラー」という呼び名の意味は?
「ヒーラー(Heeler)」は英語の「heel(かかと)」に由来し、家畜のかかとを噛んで誘導する牧畜犬のタイプを指します。コーギーは「ウェルシュ・ヒーラー」とも呼ばれていました。オーストラリアン・キャトル・ドッグなども同じヒーラータイプの牧畜犬です。
まとめ
今回は、コーギーが牧羊犬(牧畜犬)として活躍していた歴史について詳しくご紹介しました。最後にポイントをおさらいしましょう。
- コーギーの歴史は1107年頃までさかのぼる、1000年近い歴史を持つ犬種
- 「ヒーラー」として牛のかかとを噛んで誘導する仕事をしていた
- 短足の理由は、牛に蹴られないようにするため
- 断尾の習慣も、牛に踏まれないための工夫だった
- ペンブロークとカーディガンは祖先が異なる別の犬種
- イギリス王室に愛され、「王室の犬」とも呼ばれる
- 現代のコーギーにも牧羊犬の本能が残っている
あの愛らしい短足とぷりぷりのお尻の裏には、何百年もの間、牧場で働き続けてきた歴史が詰まっています。コーギーと暮らしている方も、これから迎えようと考えている方も、ぜひその歴史を知った上で、この魅力的な犬種との生活を楽しんでくださいね。

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