ちょこちょこと歩く愛らしい姿、長い胴体と短い足——ダックスフンドといえば、この特徴的なシルエットを思い浮かべる方も多いですよね。
でも、ふと疑問に思いませんか?「なぜダックスフンドだけこんなに足が短いの?」「胴長短足になったのには何か理由があるの?」
実は、ダックスフンドの体型には深い歴史と科学的な理由があるんです。この記事では、ダックスフンドが短足胴長になった理由を、歴史的背景から最新の遺伝子研究まで詳しく解説します。愛犬への理解がぐっと深まる内容になっていますので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
ダックスフンドが短足胴長になった歴史的理由
ダックスフンドの特徴的な体型は、偶然の産物ではありません。「ある目的」のために、何百年もかけて人間の手によって作り上げられたものなんです。
名前の由来は「アナグマ犬」
ダックスフンドという名前は、ドイツ語で「アナグマ」を意味する「ダックス(Dachs)」と、「犬」を意味する「フント(Hund)」を組み合わせた言葉です。つまり、ダックスフンドは「アナグマ犬」という意味なんですね。
その名の通り、ダックスフンドはアナグマを狩るための猟犬として誕生しました。現在のダックスフンドの祖先は、12世紀頃のドイツやオーストリアの山岳地方にいたと考えられています。
巣穴に潜り込むための体型
アナグマは地面の下に巣穴を掘って生活する動物です。犬に追われると、素早く巣穴に逃げ込んで身を隠してしまいます。
そこで困ったのが当時のハンターたち。「巣穴に逃げ込まれたらどうすればいい?」という課題を解決するために考えられたのが、巣穴の中まで追いかけられる体型の犬を作り出すことでした。
狭くて長い巣穴に入り込むためには、足が短くて胴が長い体型が理想的です。そこで、偶然生まれた胴長短足の個体を選び、その個体同士を交配させることで、現在のダックスフンドの体型が確立されていきました。
体長が体高の約2倍という独特のプロポーションは、アナグマの巣穴に入り込める体型として選択交配されてきた結果なのです。

勇敢さも求められた理由
実は、アナグマは見た目とは裏腹にかなり凶暴な動物です。体重は10kg以上あり、鋭い爪と牙を持っています。狭い巣穴の中でそんなアナグマと対峙するには、相当な勇気と闘争心が必要でした。
そのため、ダックスフンドには短足胴長の体型だけでなく、凶暴なアナグマにもひるまない勇敢な性格も選択的に受け継がれてきました。現在のダックスフンドが好奇心旺盛で気が強いのは、この猟犬としてのルーツが関係しているんですね。
サイズの違いも狩猟が理由
ダックスフンドには「スタンダード」「ミニチュア」「カニンヘン」の3つのサイズがありますが、これも単に「小さくてかわいいから」という理由で作られたわけではありません。
初期のダックスフンドはスタンダードサイズで、大きなアナグマを狩っていました。しかし、より小さなウサギやキツネなどを狩るためには、もっと小さな巣穴に入れる体が必要でした。そこで19世紀頃、より小型の個体を選んで交配させることで、ミニチュアやカニンヘンサイズが誕生したのです。
| スタンダード | 胸囲35cm以上、体重約9kg | アナグマ猟用 |
| ミニチュア | 胸囲30〜35cm、体重約4〜5kg | ウサギ・キツネ猟用 |
| カニンヘン | 胸囲30cm以下、体重約3kg以下 | より小さな獲物用 |
ちなみに「カニンヘン」はドイツ語で「ウサギ」という意味です。名前からも、小さな巣穴に住むウサギを狩るために作られたことがわかりますね。
科学が解明した短足の遺伝子
ダックスフンドが短足胴長になった歴史的な理由はわかりましたが、では「遺伝子レベルでは何が起きているのか」という疑問が残りますよね。実は、この謎は2009年に科学的に解明されました。
科学誌「サイエンス」に掲載された研究
2009年、アメリカとイギリスの研究チームが、短足犬種の遺伝子について画期的な発見をしました。この研究結果は、世界的に権威のある科学誌「サイエンス(Science)」に掲載されています。
研究チームは、ダックスフンドやウェルシュ・コーギー、バセット・ハウンドなど短足犬種95匹を含む835匹の犬を対象に、遺伝子の分析を行いました。
短足の原因は「FGF4遺伝子」だった
研究の結果、驚くべき事実が判明しました。短足犬種すべてに共通していたのは、「FGF4」という細胞増殖因子タンパク質を作る遺伝子が、他の犬種よりも多く存在していたことでした。
通常の犬はFGF4遺伝子を1つしか持っていませんが、ダックスフンドなどの短足犬種は、第18染色体上にもう1つのFGF4遺伝子を持っているのです。つまり、FGF4遺伝子が「2つ」あるということです。
FGF4(線維芽細胞増殖因子4)は、細胞の増殖や骨の発達に関わるタンパク質を作る遺伝子です。骨が伸びる成長期に重要な役割を果たしています。
なぜ足が短くなるの?
では、なぜFGF4遺伝子が2つあると足が短くなるのでしょうか?
犬の骨が伸びるとき、骨の先端付近で軟骨細胞が盛んに増殖し、その軟骨が骨に置き換わることで骨が長くなっていきます。しかし、FGF4遺伝子が2つあると、成長を促すタンパク質が過剰に生産されてしまいます。
その結果、成長期の早い段階で骨化(軟骨が骨に変わること)が起こってしまい、十分に軟骨が増える前に骨の成長がストップしてしまうのです。これが、ダックスフンドの足が短くなる遺伝子レベルでのメカニズムです。
オオカミにも同じ遺伝子があった
興味深いことに、この余分なFGF4遺伝子は、犬の祖先であるハイイロオオカミにも見つかっています。つまり、この遺伝子変異は犬が家畜化される以前から存在していた可能性があるのです。
野生のオオカミで短足になってしまうと生存に不利なため、自然淘汰されてしまいます。しかし、人間がその特徴に目をつけ、選択的に交配させたことで、ダックスフンドやコーギーといった短足犬種が誕生したというわけです。
まさに、人間による「選択繁殖」と「遺伝子の偶然」が組み合わさって生まれた体型なんですね。
短足胴長だからこそ気をつけたい健康管理
ダックスフンドの愛らしい体型には、このような深い歴史と科学的背景があります。しかし、短足胴長という体型には、健康面で注意すべき点もあります。

椎間板ヘルニアのリスクが高い
ダックスフンドは「軟骨異栄養犬種」と呼ばれ、生まれつき軟骨がやや弱い体質を持っています。これはFGF4遺伝子の影響によるものです。
そのため、背骨のクッション役である椎間板も変性しやすく、椎間板ヘルニアになるリスクが他の犬種の約10倍と言われています。椎間板ヘルニアは、突然後ろ足が動かなくなるなど、深刻な症状を引き起こすことがあります。
日常生活での予防ポイント
愛するダックスフンドを椎間板ヘルニアから守るためには、日頃から腰に負担をかけない生活を心がけることが大切です。
- ソファや階段の飛び乗り・飛び降り
- 縦抱き(脇を持って持ち上げる抱き方)
- 滑りやすいフローリング
- 急な方向転換や激しいジャンプ
- 肥満(体重増加は腰への負担大)
これらは椎間板ヘルニアのリスクを高める要因です。できるだけ避けるようにしましょう。
- 抱っこは横向きに、背中が床と水平になるように
- 段差にはスロープやステップを設置
- 床には滑り止めマットやカーペットを敷く
- 適切な体重管理を心がける
- 毎日の適度な運動で筋力を維持
片方の手でお尻を支え、もう片方の手で胸から前足のあたりを支えます。抱き上げたときに犬の背中が地面と水平になるようにするのがポイントです。脇だけを持って縦に抱き上げるのは腰への負担が大きいのでNGです。
早期発見のためのチェックポイント
椎間板ヘルニアは早期に治療できれば回復の可能性が高い病気です。以下のような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
- 背中を触ると痛がる:抱っこしたときにキャンと鳴くなど
- 背中を丸めている:普段と違う姿勢でじっとしている
- 散歩を嫌がる:運動を避けるようになった
- ふらつきながら歩く:後ろ足に力が入らない様子
- 足を引きずる:爪がすり減っている
ダックスフンドの短足胴長に関するよくある質問
ダックスフンドの短足は人工的に作られたの?
はい、ダックスフンドの短足胴長の体型は、人間による選択繁殖によって作られました。アナグマ猟に適した体型として、偶然生まれた短足の個体を選び、その個体同士を交配させることで、現在の体型が確立されました。ただし、その根本にあるFGF4遺伝子の変異自体は、オオカミの時代から存在していたと考えられています。
短足だと足が遅いの?
見た目に反して、ダックスフンドは意外と俊敏です。猟犬として活躍してきただけあり、スタミナもあります。もちろん長距離を走る競走犬にはかないませんが、短距離での素早い動きや、狭い場所での機敏さは抜群です。
他の短足犬種も同じ遺伝子を持っているの?
はい、ウェルシュ・コーギー、バセット・ハウンド、ペキニーズなど、多くの短足犬種がFGF4遺伝子の重複を持っていることが研究で確認されています。見た目や歴史が異なる犬種でも、短足になる遺伝子的なメカニズムは共通しているのです。
現在も猟犬として使われているの?
原産国のドイツをはじめ、ヨーロッパでは現在もダックスフンドを猟犬として使っている地域があります。特にシカ狩りのハウンド犬(追跡犬)として活躍しています。日本ではほとんどが家庭犬として飼育されていますが、猟犬としての本能は今も健在です。
まとめ
ダックスフンドが短足胴長になった理由について、歴史と科学の両面から解説してきました。最後に、この記事のポイントをおさらいしましょう。
- ダックスフンドはアナグマ猟のために作られた犬種で、巣穴に潜り込めるよう短足胴長に改良された
- 名前の由来は「アナグマ犬」(ダックス=アナグマ、フント=犬)
- 3つのサイズ(スタンダード・ミニチュア・カニンヘン)は狩猟対象の動物の大きさに合わせて作られた
- 科学的には「FGF4遺伝子」の重複が短足の原因であることが2009年に解明された
- この遺伝子が過剰に働くことで、成長期に骨の伸長が早く止まってしまう
- 短足胴長ゆえに椎間板ヘルニアのリスクが高いため、日頃から腰に負担をかけない生活を心がけることが大切
ダックスフンドの特徴的な体型には、数百年にわたる人間との歴史と、遺伝子レベルでの科学的な理由がありました。この体型こそが、ダックスフンドをダックスフンドたらしめているものであり、同時に健康管理で気をつけるべきポイントでもあります。
愛犬のルーツを知ることで、より深い愛情と理解を持って接することができるのではないでしょうか。ダックスフンドとの暮らしがさらに豊かになることを願っています。

コメント