この記事は、公開されている情報や犬種に関する一般的な知見をもとにWANLABが独自にリサーチ・編集しています。できる限り正確な内容を心がけていますが、情報が古くなっている場合や個体差によって当てはまらない場合もあります。健康やしつけに関する判断は、必要に応じて獣医師や専門家にもご相談ください。
この記事の要点
- ダルメシアンの斑点が難聴を起こすのではありません。被毛と内耳の双方に関わる色素細胞の発生・遺伝的背景が接点です。
- 内耳の色素細胞は、音を電気信号へ変えるための環境を保つ血管条に関わります。この働きが損なわれると、感音難聴につながり得ます。
- 外見上の斑点、青い目、頭部の色素斑は集団の関連を示す手掛かりで、個体の聞こえを確定する診断ではありません。
- 左右それぞれの反応はBAER検査で確認します。新たな聞こえ方の変化は先天性と決めず、獣医師へ相談してください。
見た目の模様から耳の状態を当てるのではなく、どこまでが生物学的な接点で、どこからが検査でしかわからないのかを分けて読み解きます。
ダルメシアンの子犬を迎える前、くっきりした斑点を眺めながら「この模様なら耳は大丈夫なのだろうか」と気になるかもしれません。すでに一緒に暮らしていて、片側から呼んだときだけ反応が遅いように感じることもあります。
先に答えると、斑点そのものが耳を悪くするわけではありません。被毛の模様と内耳の働きに、色素細胞という共通項があるため、両者が関連して見えます。ただし外見だけで一頭の聞こえ方は決められません。必要なのは、左右の耳を分けた客観的な確認です。

斑点と聴覚をつなぐのは「色」より色素細胞
ダルメシアンの白地と斑点は、一つの「斑点遺伝子」だけで完成する模様ではありません。白い部分の広がり、後から現れる斑点、斑点の色など、複数の遺伝的な要素が重なっています。その中心で研究されてきた遺伝子の一つが、色素細胞の発生や働きを調節するMITFです。
ここで大切なのは、色素細胞が被毛を黒や茶に見せるだけの細胞ではないことです。内耳にも、同じ発生系統に由来するメラノサイトがあります。蝸牛の外側にある血管条という組織で、音の振動を神経の電気信号へ変えるための環境を保つ働きに関わります。
内耳のメラノサイトが不足したり働けなかったりすると、血管条が変性し、続いて感覚細胞のある蝸牛にも変化が及ぶことがあります。つまり接点は「黒い色が音を受け止める」ことではなく、色素細胞の発生と内耳の電気的な環境です。

英国8,955頭の調査で見えた集団の傾向
英国で1992年から2019年2月までにBAER検査を受けたダルメシアン8,955頭を解析した2020年の研究では、片側性の先天性感音難聴が13.4%、両側性が4.4%でした。合わせると17.8%ですが、これは約27年間の検査集団全体の数字です。
同じ研究では、難聴の割合は年とともに低下していました。繁殖候補を選ぶ際にBAER結果を使ったことが関わった可能性があります。地域、血統、年代、検査を受けた集団で割合は変わるため、「ダルメシアンなら一律に約18%」と現在の個体へ当てはめる数字ではありません。
青い虹彩は難聴と正の、出生時からある頭部の色素斑は負の遺伝相関を示しました。それでも、青い目なら聞こえない、頭部に色素斑があれば聞こえる、という意味にはなりません。集団の関連は、目の前の一頭の検査結果に置き換えられないからです。
MITF近傍の研究も「確率」であって運命ではない
2022年のScientific Reportsの研究は、三つの地域集団を統合したゲノム解析から、20番染色体のMITF近傍にあるリスクハプロタイプを見つけました。両側性難聴では、この型を二つ持つ犬のリスクが約10倍と推定されています。
一方で、関連は完全ではありません。両側性難聴の犬すべてがリスク型を二つ持つわけではなく、聞こえている犬にもリスク型は見つかりました。研究チームも原因となる変異そのものは未確定としています。
この結果は、色素と聴覚を結ぶ生物学的な理解を深めますが、一つのDNA結果で個体の左右の耳を判定できる段階ではありません。遺伝研究は原因に近づく地図、BAERは今の耳の反応を確かめる検査、と役割を分けると混乱しにくくなります。

BAER検査は左右の耳を別々に確認する
BAERは、短いクリック音を聞かせたときに、聴覚経路と脳幹で生じる電気活動を記録する検査です。左右の耳を一つずつ調べるため、両耳が聞こえるのか、片側だけ反応がないのか、両側に反応がないのかを客観的に分けられます。
片側性の場合、反対側の耳が音へ反応するため、家庭では気づかれないことがあります。名前を呼ぶ、手をたたく、おもちゃを鳴らすといった確認では、床の振動、空気の動き、視線、聞こえる側の耳が手掛かりになります。「普段反応するから両耳とも聞こえる」とは限りません。
BAERにも境界があります。反応の有無と左右差を確認できますが、日常音をどの程度聞き取れるか、難聴の原因が遺伝性か後天性かまで一度に決める検査ではありません。耳道や中耳の問題が疑われる波形では、診察や追加の測定が必要になることもあります。
検査できる月齢や、鎮静の要否、再検査の手順は施設と個体で異なります。子犬の記録を見るときは、左右別の結果、検査日、実施者を確認し、不明点を実施施設や獣医師へ尋ねてください。

子犬を迎える前後に確認したい3点
- 左右別のBAER記録を見る:口頭の「聞こえています」だけでなく、検査日と左右の判定がわかる記録を確認します。
- 外見を検査の代わりにしない:斑点の数、目の色、頭部の色素斑は、個体の左右の聴力を確定しません。
- 結果に合う安全策を相談する:聞こえにくさがある犬では、視覚的な合図、リードや囲い、寝ている犬へ急に触れない工夫を、獣医師や適切な指導者と整えます。
聞こえにくさがあっても、視覚的な合図や振動を使い、安全な環境を整えながら暮らせる犬はいます。診断名だけで犬の性格や暮らしの質を決めず、その犬が受け取りやすい合図と驚かせにくい接し方を探すことが大切です。
成犬で反応が変わったら先天性と決めない
先天性難聴の記事を読んだ後では、呼びかけへの反応が鈍いと「遺伝のせいかもしれない」と考えやすくなります。しかし、成犬になってから新しく現れた変化には、外耳や中耳の病気、加齢、外傷、薬剤など、別の原因もあります。
急な変化、耳の痛みや臭い、頭を振る、ふらつくといった症状があるときは、家庭で大きな音を出して試さず、動物病院へ相談してください。原因の切り分けが済むまでは、車道や広い場所で声の呼び戻しだけに頼らないことも安全につながります。
ダルメシアンの斑点と聴覚についてのFAQ
- 斑点が多いダルメシアンほど聞こえやすいですか?
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斑点の数や大きさで個体の聴力は判定できません。被毛の模様と難聴には色素細胞の発生・遺伝的背景という接点がありますが、見た目はBAER検査の代わりになりません。
- 青い目なら難聴ですか?
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青い虹彩と難聴には集団レベルの関連が報告されていますが、青い目だけで難聴とは決まりません。目の色にかかわらず、左右別の聞こえ方はBAERで確かめます。
- 家庭で片耳の難聴を見分けられますか?
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確実に見分けるのは困難です。聞こえる側の耳、床の振動、視線などに反応できるため、片側性は普段の生活で見逃されることがあります。大きな音で驚かせず、BAERを実施できる施設へ相談してください。
- 遺伝子検査だけで先天性難聴はわかりますか?
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2022年研究でMITF近傍のリスクハプロタイプが見つかりましたが、関連は完全ではなく、原因変異も未確定です。個体の左右の聴覚を確かめる検査として、遺伝子結果がBAERに置き換わる段階ではありません。
- 子犬のBAER結果は何を確認すればよいですか?
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検査日、左右それぞれの判定、実施者がわかる記録を確認します。検査月齢や波形に不明点があるときは、実施施設または獣医師へ再検査の要否を尋ねてください。
参考情報
- Kluth et al. (2022): A risk haplotype for congenital sensorineural deafness in Dalmatian dogs
- Lewis et al. (2020): Decline in prevalence of congenital sensorineural deafness in Dalmatian dogs in the United Kingdom
- Stritzel et al. (2020): A multi-breed genome-wide association analysis for canine congenital sensorineural deafness
- MSD Veterinary Manual: Deafness in Animals
- University of Florida Veterinary Hospitals: Brainstem Auditory Evoked Response (BAER)
- Orthopedic Foundation for Animals: Congenital Deafness
- Dalmatian Club of America: Hearing



