この記事の要点
犬は病院で緊張すると、血圧が一時的に上がることがあります。ただ、腎臓病などが隠れた本当の高血圧のこともあり、1回の値だけでは決められません。1回の値で慌てず、言われた数字と次に測る日を、獣医師に確認しておきましょう。
急に目が見えなくなった、瞳が開いたまま、けいれん、ふらつき、呼びかけへの反応が鈍いときは、再測定の日を待たず、すぐに動物病院へ連絡してください。人の血圧の薬は与えず、処方された薬も自己判断で止めないでください。
この記事で分かること:すぐ受診したいサイン/再測定までにすること/病院で高く出る理由と、見過ごせない理由
2026年9月更新|大学や獣医療機関、獣医学の論文などの資料をもとにまとめています
この記事は公開情報をもとにWANLABが編集した一般情報です。健康や行動に関する判断は、必要に応じて獣医師や専門家へご相談ください。
健康診断で「血圧が少し高いですね」と言われると、心配になりますよね。診察台の上で震えていた、ずっと鳴いていた、という子も多いはずです。緊張のせいなのか、本当に高血圧なのか。この記事では、急ぐ度合いの目安と、次の測定までにできることをまとめます。
まず確認したい、受診の目安
高血圧の多くは、はっきりした症状がないまま進みます。そのため、ほとんどの場合は急ぐ必要はありません。ただし、目や脳に急な変化が出ているときは別です。血圧による目の障害は、治療をしても、視力が戻らないことが多いと報告されています。見え方の変化には、早めに気づいてあげたいところです。
- 急に目が見えなくなった様子がある(物や壁にぶつかる、段差で立ち止まる)
- 明るい所でも瞳が大きく開いたまま、目の中に血がにじんでいる
- けいれんした
- 急にふらつく、頭が傾く、同じ方向にぐるぐる回る、立てない、倒れた
- ぼんやりして呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりして動けない
- 鼻血が止まらない
- おしっこが出ない、何度もいきむのに少ししか出ない
- 家族が飲んでいる血圧や心臓の薬を、誤って食べてしまった
- 鼻血が出たが、すぐに止まった
- おしっこに血が混じる
- すでに血圧の薬を飲んでいる子で、飲み始めてから元気がない、ふらつきやすい
- 水を飲む量やおしっこの量が増えてきた、なんとなく元気がない(その日が難しければ、数日以内に)
- 病院で一度だけ高めの値が出たが、元気・食欲・見え方・歩き方がいつもどおり
- その場合も、再測定の日を獣医師と決めておく。180以上と言われたときは、1〜2週のうちに測り直すのが目安
すぐに連絡するときは、落ちたりぶつかったりしない場所で休ませ、症状が始まった時刻をメモしておきます。けいれんのときの動き方は犬がけいれんしたときの初動と救急受診の目安にまとめています。迷ったときは、まず動物病院に電話で相談してください。
再測定までにすること
- 病院で言われた数字と、次に測る日を確認する(「高め」とだけ聞いたときは、電話で聞いてもよい)
- 9歳を過ぎた子や、水をよく飲むようになった子は、再測定のときに血液や尿の検査も相談する
- 見え方、水を飲む量、おしっこの量や回数、歩き方をメモしておく(気になる様子は動画に)
- 人の血圧の薬は与えない。処方された薬は自己判断で止めない
再測定を待つあいだは、食事を自己判断で大きく変える必要はありません。塩分を控えるだけで血圧が下がるとは限らないとされているので、食事を変えたいときは獣医師に相談しましょう。
病院で血圧が高く出る理由
緊張による一時的な上昇
病院で測るときの緊張や興奮によって、ふだんは正常な血圧が一時的に上がることがあります。人でいう「白衣高血圧」に近いもので、気のせいではなく、体が実際に反応して上がっている状態です。家で測るなど、緊張のもとがなくなると下がります。
上がり方は犬によってさまざまで、ほとんど変わらない子や、逆に下がる子もいます。影響の出方は予測しにくく、見た目だけでは判断できません。少ない頭数の研究ですが、家より病院で、また飼い主がそばにいないときに、高く出る傾向が報告されています。グレイハウンドなど足の速い細身の猟犬も、病院では高めに出やすい犬種です(グレイハウンドの血液検査で数値が独特に出る理由)。
測り方による誤差
犬の血圧は、足やしっぽに巻く帯(カフ)で測ります。帯の幅が体に合っていない、犬が動いている、心臓と巻いた場所の高さが大きく違うといったことで、値はずれます。条件を整えても安定した値がそろわないことは珍しくないため、1回の数字だけでは判断しません。
それでも見過ごせない理由
犬の高血圧の多くは、別の病気に続いて起こります。代表的なのは慢性腎臓病と、副腎という臓器からホルモンが出すぎる病気(クッシング症候群)です。ほかに糖尿病や、まれですが副腎の腫瘍なども原因になります。こうした病気は年を重ねた犬に多いため、シニア犬で血圧が高いと言われたら、血液や尿の検査で原因を探すことがあります。飲んでいる薬や目薬が血圧に関わることもあります。
| 考えられる原因 | 特徴 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 緊張による一時的な上昇 | ふだんは正常。病院で測ったときだけ高い | 静かな場所で慣らしてから測る、家で測るなど条件を変えると下がる。治療の対象にはならない |
| 測り方による誤差 | 1回ごとの値がばらつく | 体に合った帯で何回か測って平均すると安定する |
| 病気が原因の高血圧(慢性腎臓病、クッシング症候群、糖尿病など) | 条件をそろえても、何度測っても高い | 血液・尿の検査、目の奥の検査などで原因や体への影響を調べる |
| 原因がはっきりしない高血圧 | 検査で原因の病気が見つからない | くり返し測っても高く、血液・尿の検査に異常がないときに考える |
高い血圧が続くと、細い血管が集まる臓器が傷つきやすくなります。初めのうちはほとんど目立たないので、定期的に測ることが大切です。
- 目:目の奥の、ものを見るための膜(網膜)がはがれたり、出血したりします。急に見えなくなる、瞳が開いたままになる、目の中に血がにじむといった形で気づくことがあります。
- 腎臓:尿にたんぱくが出る、腎臓の働きが落ちるといった影響があります。
- 脳:元気がない、ぼんやりする、けいれん、ふらつき、頭が傾くなどの症状が出ることがあります。
- 心臓・血管:心臓に負担がかかり、聴診で雑音や脈の乱れが見つかることがあります。鼻血につながることもありますが、鼻血の原因の多くは高血圧以外です。
血圧の値の目安
アメリカの獣医内科の専門学会の指針では、上の血圧の値によって、体への負担の大きさを4つに分けています。値は、正しい条件で何回か測ったときのものです。単位は人の血圧と同じ(mmHg)です。
| 上の血圧 | 区分 | 体への負担の大きさ | 再測定の目安 |
|---|---|---|---|
| 140未満 | 正常 | ごく小さい | ― |
| 140〜159 | 高血圧の手前 | 小さい | 4〜8週のあいだに、日を変えて何回か |
| 160〜179 | 高血圧 | 中くらい | 4〜8週のあいだに、日を変えて何回か |
| 180以上 | 重い高血圧 | 大きい | 1〜2週のうちに、日を変えて何回か |
多くの場合は、日を変えた3回以上の測定で高いことを確かめてから、治療を考えます。治療の目安は160以上が続く場合で、「高血圧の手前」ではふつう薬を使わず、定期的に様子を見ます。ただし、目や腎臓などにすでに影響が出ているときは、1回の測定で治療を始めることもあります。
再測定のときに飼い主ができること
再測定の目的は、低い値を探すことではありません。毎回同じ条件で測り、前の値と比べられるようにすることです。予約のときに、次のことを相談しておきましょう。
- 測るときに付き添えるか
- 採血などの前、診察の最初に測ってもらえるか
- 待合室が騒がしいと緊張する子なら、車で待つなどの工夫ができるか
病院では、静かな部屋で5〜10分ほど慣らしてから、体に合った帯で何回か続けて測り、平均を出します。眠くなる薬(鎮静剤)は使いません。家で測る方法もありますが、犬の血圧は家でも正しく測るのが難しいため、使う機器や測り方は先に獣医師と決めておきましょう。
やってはいけないこと
人の血圧の薬を犬に与えないでください。犬が飲むと、血圧が下がりすぎる、脈が遅くなるなどの危険があります。家族の薬は犬の届かない所にしまいましょう。誤って食べたときは、獣医師の指示がないまま家で吐かせようとせず、すぐに動物病院へ連絡してください。
処方された薬を、自己判断で止めたり減らしたりしないでください。高血圧の薬は長く続けることが多く、量は測定の結果を見ながら獣医師が調整します。気になることがあれば、やめる前に相談しましょう。
よくある誤解
- 「病院で高いのは、どうせ緊張のせい」
緊張で上がることはありますが、病気が原因の高血圧が隠れていることもあります。条件をそろえた再測定で確かめるまでは、どちらとも言えません。 - 「家で測って低かったから、薬は休んでいい」
家での測定にも誤差があり、値が落ち着いているのは薬が効いているからかもしれません。家の値は記録して、受診のときに獣医師に見せましょう。
受診のときに伝えること
- これまでの血圧の値と、測った日(分かれば、付き添いの有無も)
- 見え方、歩き方、反応の変化があれば、始まった時期と様子(動画があれば見せる)
- 水を飲む量、おしっこの量・回数・色の変化、鼻血があったか
- 飲んでいる薬・目薬・サプリメントのすべて(名前と量)
- 腎臓病、クッシング症候群、糖尿病などと言われたことがあるか
- 病院でとても緊張しやすいか、家での血圧の記録があるか
よくある疑問
- 症状がなくても、血圧は測ったほうがいいですか?
-
若くて元気な犬すべてに測る必要はない、というのが獣医療の指針の考え方です。ただ、9歳以上の犬では、年に1回ほど測るのが妥当とされています。ある程度進んだ慢性腎臓病やクッシング症候群などがある犬では、半年に1回ほどの健康チェックと血圧測定がすすめられています。
- 高血圧と診断されたら、薬は一生続きますか?
-
多くの場合、薬は長く続けることになり、量は様子を見ながら調整されます。原因の病気の治療がうまくいっても、血圧が下がりきらないことが多いためです。すぐに目に見える変化がなくても、目や腎臓を守るための治療なので、定期的な測定と検査を続けましょう。
参考情報(出典8件)
- アメリカ獣医内科学会(ACVIM):ACVIM consensus statement: Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats(2018年)
- Koo ST, Carr AP(サスカチュワン大学):Comparison of home blood pressure and office blood pressure measurement in dogs and cats(Can J Vet Res、2022年)
- Sunahara H ほか(山口大学):Influences of measurement environment and owner presence on in-clinic blood pressure in dogs(Can Vet J、2026年)
- VCA Animal Hospitals:Systemic Hypertension (High Blood Pressure) in Dogs
- Merck Veterinary Manual:Acquired Heart and Blood Vessel Disorders in Dogs(High Blood Pressure)
- Merck Veterinary Manual:Poisonings from Human Prescription Drugs
- ASPCA:Medication Spotlight: Heart and Blood Pressure Medications and Your Pets
- コーネル大学獣医学部:Emergency and Critical Care




