この記事は、公開されている情報や犬種に関する一般的な知見をもとにWANLABが独自にリサーチ・編集しています。できる限り正確な内容を心がけていますが、情報が古くなっている場合や個体差によって当てはまらない場合もあります。健康やしつけに関する判断は、必要に応じて獣医師や専門家にもご相談ください。
この記事の要点
- 犬が急に立てない、支えなしで歩けない、倒れるときは、原因を探す前に救急対応が可能な動物病院へ電話してください。
- ふらつきは一つの病名ではありません。平衡感覚、脊髄や神経、強い痛み、循環、低血糖、中毒、熱中症など原因の幅があります。
- 歩かせて確かめず、階段や家具から離し、頭・首・背中をねじらないよう毛布などで体全体を支えて運びます。
- 人用鎮痛薬、残り薬、マッサージ、無理な飲食、自己判断で吐かせることは避けます。動画は受診を遅らせない範囲に限ります。
立てない原因を家庭で当てることより、転倒と症状の悪化を防ぎながら診察へつなぐことが先です。
さっきまで歩いていた犬が、突然腰を落とし、足を広げても体を支えられない。呼ぶと反応はするのに、立とうとすると横へ倒れる。驚いて「もう一度歩かせれば戻るかも」と考えやすい場面です。
しかし、急な起立不能や歩行不能は、MSD Veterinary ManualとCornell University Hospital for Animalsが救急評価の対象に挙げる変化です。まず犬を安全な場所で伏せさせ、救急病院へ電話してください。原因の見分けは、そのあとです。

「立てない」と「ふらつく」はどう見える?
家庭で同じ「ふらつき」に見えても、獣医療では歩行の異常を、失調、筋力低下、痛みによる跛行、震えなどの異常運動に分けて考えます。MSD Veterinary Manualは、失調を、筋力低下や筋骨格の異常とは別の「協調した運動ができない状態」と説明しています。
たとえば、足を大きく開いて体が左右へ揺れる、足先が交差する、片側へ傾いて倒れる、力が抜けて伏せる。見た目は似ていますが、関係する場所も緊急度も同じとは限りません。
| 見える変化 | 考える方向 | 家庭での限界 |
|---|---|---|
| 足を広げ、酔ったように揺れる | 脊髄・脳・末梢神経などによる失調や脱力 | 歩き方だけで障害部位は決められない |
| 頭が傾き、片側へ倒れ、目が揺れる | 前庭系の異常 | 特発性、耳の病気、中枢の病気などを区別できない |
| 一部の足を浮かせ、触ると痛がる | 肉球・爪・骨・関節・筋肉などの痛み | 骨折や神経の問題を目視だけで除外できない |
| 力が抜けて倒れ、反応が鈍い | 循環、呼吸、出血、代謝、中毒など全身の異常 | 短時間で戻っても安全とは判断できない |
歩けるかを何度も試すほど、転倒や脊椎への負担が増えます。観察は一度見た範囲で止め、「立たせて原因を確かめる」ことはしません。

今すぐ救急病院へ連絡したいサイン
支えなしで立てない、歩けない時点で、救急病院へ連絡する理由があります。そこへ呼吸、意識、歯ぐきの色、けいれん、外傷などが重なれば、さらに優先度が上がります。
- 呼びかけへの反応が弱い、意識を失う、再び倒れる
- 呼吸が苦しそう、首を伸ばす、胸やお腹を大きく使って息をする
- 舌や歯ぐきが白い、青紫、灰色っぽい
- けいれん、強い震え、目が小刻みに揺れる
- 交通事故、転落、衝突、かみ傷などのあとに立てない
- 背中や首を強く痛がる、足を動かせない、排尿できない
- 繰り返し吐く、腹部が急に膨らむ、吐こうとしても出ない
- 暑い環境のあとに荒い呼吸、よだれ、嘔吐、下痢、意識の変化がある
- 薬、キシリトール製品、殺虫剤、植物などを口にした可能性がある
「少し休んだら立てた」場合も、突然の虚脱や失神に見える発作は放置しません。発症直前の運動、興奮、食事、咳、嘔吐、服薬、誤食の可能性を伝え、当日中の診察が必要か病院に確認してください。
一方、以前から少しずつ立ち上がりが遅くなった場合でも、急に悪化した、痛みが出た、左右差が強くなったなら、年齢のせいと決めつけず同じように早く相談します。
考えられる原因は神経だけではない
急に立てなくなると、脳の病気や「老犬の前庭疾患」をまず連想するかもしれません。前庭系の異常では、突然の平衡感覚の喪失、頭の傾き、眼振、吐き気、片側へ倒れる様子が見られます。
ただし、VCA Animal Hospitalsは、前庭症状の背景として中耳・内耳の感染、耳に有害な薬剤、外傷、腫瘍、甲状腺の病気などを挙げています。見た目だけで「特発性だから自然に戻る」と判断することはできません。
- 脳・脊髄・末梢神経:前庭系の異常、椎間板疾患、脊髄の血流障害、炎症、外傷など
- 骨・関節・筋肉:骨折、脱臼、靱帯や筋肉の損傷、強い痛みなど
- 心臓・呼吸・循環:失神、ショック、出血、重い貧血、酸素不足など
- 代謝・内分泌:低血糖、電解質異常、臓器の機能低下など
- 中毒・薬剤:キシリトール、誤薬、殺虫剤などへの曝露
- 環境と全身状態:熱中症、低体温、重い感染症など
脊椎の椎間板疾患では、ふらつく歩き方から、足を自分で動かせない状態まで幅があります。ACVSは椎間板破裂を一般に外科的な緊急事態と説明し、評価時に残る機能の程度が見通しに関係するとしています。
原因の幅が広いからこそ、「痛がらないから脊椎ではない」「目が揺れるから老犬性」といった消去法は使えません。診断名を急ぐ代わりに、救急へつなぐ材料を集めます。

受診までに犬を安全に運ぶ方法
最初に、階段、ソファ、家具の角から犬を離します。滑らない床に毛布を敷き、無理に座らせたり立たせたりせず、呼吸しやすい姿勢で待たせます。痛みや混乱で、普段は穏やかな犬が触られることを嫌がる場合もあります。
外傷や背中・首の異常が否定できないときは、頭、首、背中をなるべく一直線に保ちます。小型犬は底の安定したキャリー、大型犬は厚い毛布、板、丈夫な平面を使い、可能なら二人で体全体を支えます。
- 先に病院へ電話し、症状と到着予定を伝える
- 犬の周囲から段差、家具、食器を遠ざける
- 胸と腰を別々に持ち上げず、体全体を水平に支える
- 車内では毛布や丸めたタオルで転がりを防ぐ
- 呼吸を妨げないよう、首輪や服がきつくないか見る
- 暑さが疑われる場合は、病院の指示を受けながら冷房を使う
立てるかを確かめるために引っ張る、脇だけを抱える、足を引きずらせると、転倒や痛みにつながります。安全な運び方が分からなければ、電話口で犬の大きさと現在の姿勢を伝え、具体的な指示を受けてください。
家庭で記録すること・やってはいけないこと
診察で役立つのは、発症した時刻と、その直前から今までの変化です。安全を確保でき、受診を遅らせないなら、立とうとしたときの様子を短く一度だけ撮影します。撮影のために歩かせる必要はありません。
- 突然か、数日以上かけて進んだか
- 意識を失ったか、呼びかけに反応していたか
- 頭の傾き、眼振、旋回、足先の交差があるか
- 痛がる場所、外傷、転落、激しい運動があったか
- 呼吸の様子と、舌・歯ぐきの色
- 嘔吐、下痢、排尿、排便、食欲の変化
- 薬やサプリ、糖尿病のインスリン、誤食の可能性
- 暑さ、寒さ、散歩、食事、興奮との時間関係
同時に、薬の袋、誤食した可能性がある製品、残っている包装、普段の薬の一覧を持って行きます。病院へ伝える情報は増やせますが、家庭で治療を始める場面ではありません。
- 歩かせる、階段を上らせる、足先を裏返して反応を試す
- 首、背中、腰、足をもむ、伸ばす、ひねる
- 人用の鎮痛薬、別の犬の薬、以前の残り薬を与える
- 反応が鈍い犬や吐いている犬へ、食べ物や水を無理に与える
- 誤食を疑って、塩やオキシドールなどで吐かせる
- 「前庭疾患」「ぎっくり腰」などと決め、朝まで待つ
FDAは、人用の鎮痛薬や別の犬の薬が、その犬に安全とは限らず害になる可能性があるとして、投薬前に獣医師へ相談するよう注意しています。痛そうに見えても、自己判断で薬を足さないでください。

病院では何を確認する?
救急では、まず呼吸、循環、意識、体温、出血、痛みなど、生命に関わる問題を優先します。安定してから、いつどのように倒れたかを聞き、神経学的診察、整形外科的な確認、耳の診察などを組み合わせます。
必要な検査は一律ではありません。血液検査、血糖や電解質、血圧、心電図、画像検査、耳の検査などから、症状と診察所見に合うものが選ばれます。脳や脊髄の詳しい評価には、CTやMRI、専門診療が検討される場合もあります。
「老犬だから」「足腰が弱い犬種だから」という情報は手がかりの一つです。年齢や犬種だけで結論を決めず、突然性、左右差、痛み、意識、呼吸、全身状態を重ねて原因を探します。
犬が立てない・ふらつくときのよくある質問
- 数分休んだら立てました。それでも病院へ行くべきですか?
-
突然倒れた、支えられなかった、意識がいつもと違った場合は、回復して見えても当日中に動物病院へ相談してください。失神、低血糖、心臓や循環の異常など、短く現れる問題も家庭では区別できません。
- 目が揺れて頭が傾いています。老犬性の前庭疾患なら様子見できますか?
-
様子見で特発性前庭疾患と決めることはできません。似た症状は耳の病気、薬剤、外傷、脳の病気などでも起こります。倒れてけがをする危険もあるため、安全を確保してすぐ病院へ連絡してください。
- 足をもんだり、ストレッチしたりしてもいいですか?
-
しないでください。骨折、脱臼、脊椎や神経の問題があると、動かすことで痛みや損傷を増やす可能性があります。犬を歩かせず、頭・首・背中をねじらないよう支えて受診します。
- 病院へ電話するとき、最初に何を伝えればいいですか?
-
「急に立てない、支えなしで歩けない」と最初に伝えます。続けて、呼吸、意識、歯ぐきの色、けいれん、外傷、誤食、発症時刻、犬の体重を伝えると、受診先と運び方の指示を受けやすくなります。
立てない犬を前にすると、原因を知りたくなります。けれど最初の判断は、診断名ではありません。歩かせない、危険物から離す、病院へ電話する、体全体を支えて運ぶ。この順序が、原因の異なる多くの緊急事態に共通する安全策です。
参考情報
- MSD Veterinary Manual「Initial Triage and Resuscitation of Small Animal Emergency Patients」(歩行不能、虚脱、意識変化などの救急トリアージ)
- MSD Veterinary Manual「The Neurologic Examination of Animals」(失調、筋力低下、跛行、異常運動の区別)
- Cornell University College of Veterinary Medicine「Emergency and Critical Care」(虚脱、平衡喪失、歩行困難などの救急基準)
- Cornell University College of Veterinary Medicine「Intervertebral disc disease」(ふらつき、後肢の脱力、起立不能を伴う脊椎疾患)
- American College of Veterinary Surgeons「Intervertebral Disc Disease」(協調運動の喪失、歩行不能、緊急性)
- VCA Animal Hospitals「Vestibular Disease in Dogs」(急な平衡障害、頭の傾き、眼振と原因の幅)
- VCA Animal Hospitals Urgent Care「Pain or Limping」(支えなしで立てない・歩けない場合の救急受診)
- U.S. Food and Drug Administration「Get the Facts about Pain Relievers for Pets」(人用鎮痛薬と残り薬を自己判断で与えない安全情報)



